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神奈川県の特徴と老人ホーム・介護施設の現状
人口全国2位の大県、神奈川
異国情緒あふれる港町、横浜。古都鎌倉。そして人気リゾートとしての湘南海岸。神奈川県と聞いて、多くの人が最初にイメージするのは、おそらくそのあたりでしょうか。一般的におしゃれな印象が強い神奈川県は、2023年7月時点で923万人もの人口を擁しています。これは、都道府県別では東京都についで2位となります。
神奈川県内には、3つの政令指定都市があります。県庁所在地の横浜市の人口は377万人と、県人口の40%を占めます。工業地帯の印象が強い川崎市は154万人で、横浜市とあわせると、実に県人口の58%が集中していることになります。
3つめの政令市は、旧相模国に属するエリアで最大の都市となる相模原市。人口は73万人で、県内の他の市に比較して多くの人が住んでいます。この他に人口の多い都市は、44万人ほどが住む藤沢市、38万人ほどが暮らす横須賀市があります。
老人ホームの件数も、これらの人口にほぼ比例している状態です。
県人口はおおむね増加で推移していますが、出生数と死亡数の差で見る自然増減については、少子化の影響もあって減少傾向が続いており、2017年にはついに1万人強の減少となりました。転入数と転出数の差で見る社会増は、安定的に2~3万人の増加で推移しています。
なお、東京に近い川崎市では、現在でも人口の自然増が続いています。全国的に見ても東京圏への人口集中の傾向は顕著になっていますが、都心回帰をはじめとした、職住近接指向の高まりも、見逃せない要因となります。
地域色も豊かな神奈川県
神奈川県は、面積の大きな県ではありません。それゆえ、県を地域分けすることはあまりありません。大きな分け方としては、旧武蔵国であった横浜・川崎と、旧相模国であったそれ以外の地域に分けることがあります。
天気予報での区分では、人口が密な横浜市・川崎市からなる横浜・川崎地域、三浦半島地域、藤沢市を中心とした湘南地域が県の東部地方です。一方で西部地方は、相模原市一市からなる相模原地域、厚木市を中心とした県央地域、小田原市を中心とした西湘地域、南足柄市や松田町からなる足柄上地域に分けられます。
こうしてみるとわかりますが、神奈川県にあるのは、巨大な港湾を抱え、商工業の集積地として重要な横浜・川崎市だけではありません。海沿いで比較的温暖な気候の三浦半島・湘南・西湘地域、内陸部に位置し、自然もまだまだ残る県央・相模原・足柄上地域と、個性豊かな地域が集まっています。
神奈川県は交通も便利
神奈川県域の交通事情はどうでしょうか。高齢者が老人ホームに入居したら、家族はできるだけ頻繁に面会に訪れたいものです。そのためには、施設の場所が家族の通いやすい立地であることも需要な要素です。
道路網は、東名高速道路や首都高速道路などをはじめとした、高規格道路の整備が進んでいます。国道などの整備状況も良好ですが、人口が多い都市部では交通渋滞が発生することも多いです。
鉄道網は、東京を中心とした放射状の路線がよく整備されています。日本では、放射状の路線をつなぐ環状路線の整備が弱いとされていますが、JRでは川崎市を主に通過する南武線や、横浜市から相模原市に抜ける横浜線が整備され、運行本数も多くなっています。私鉄各社も、放射状の路線をつなぐようなネットワークの一翼を担っています。
交通の便は良好なので、地域によっては東京都に住む方が神奈川県の老人ホームに入居しても、ご家族が面会する際に不便は感じられないでしょう。
神奈川県外への主なアクセスでは、東海道新幹線は新横浜と小田原の2駅があります。西日本との往来は、利便性が高いといえるでしょう。また、横浜などの主要都市からは、羽田空港へのアクセス時間も短いため、全国の主要都市とも行き来がしやすいといえます。
神奈川県は有料老人ホームの選択肢が多い
神奈川県内における、介護施設立地状況の特徴としては、まず、有料老人ホームが多いことが挙げられます。実際に、2017年10月1日現在の、神奈川県内の有料老人ホームの施設数と、入居定員数を地域ごとに並べてみます。
有料老人ホームには、主に介護付きと住宅型がありますが、神奈川県の集計ではこれらを分けていませんので、合算した施設数・定員数となります。
まずは政令指定都市から見ていきます。
県人口の4割ほどが住む横浜市には252施設あり、入居定員は16,555人となっています。近年になり人気が上昇している川崎市には158施設、入居定員は9,630人です。相模湖までの広大な市域を持つ相模原市には、69施設あり、入居定員は3,033人となっています。
それ以外の地域についても、見ていきます。ここからは、神奈川県が決めた「高齢者保健福祉圏域」によるエリア分けを用います。本文最初の方に紹介したエリア分けとは若干違いますので、あらかじめご了承ください。
まず、横須賀・三浦地域です。この中で人口の大きな横須賀市は単独で集計されており、40施設、2,197人の入居定員があります。横須賀市以外の三浦地域には、52の施設があり、3,042人の受け入れが可能です。
内陸部にある県央地域は、厚木市および愛甲郡、海老名、綾瀬、座間、大和の各市から構成されます。東京大都市圏の一角として成長してきた背景を持つ県央地域には、72もの施設があり、3,769人の入居定員があります。
湘南と呼ばれる3つの地域についても、見ていきましょう。藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町からなる湘南東地域には、74の施設があり、定員が4,347人と、他の地域に比べ、1施設あたりの定員が大きくなっているのが特徴です。
平塚市、秦野市、伊勢原市および中郡の2町からなる湘南西地域は施設数が66、入居定員は3,527人です。小田原市、南足柄市、足柄上郡、足柄下郡からなり、静岡県と境を接する県西地域には、34の施設があり、2,190人が受け入れ可能です。
地域別の細かな数字を並べてもイメージがしにくいかもしれません。この時点での、神奈川県内にある有料老人ホームの数を合計すると、817施設であり、定員は48,290人です。これより少し新しい調査になるのですが、2018年2月時点での東京都全域での有料老人ホーム数が、同じ817となっています。
施設数だけでは単純な比較はできませんが、神奈川県の人口は、東京都の人口のおおむね3分の2です。それで施設の数が同じということは、神奈川県は東京都に比べて入居しやすいことを意味します。
ただし横浜市は、その人口の割に有料老人ホームは多くないことに注意してください。
人口に比較して有料老人ホームの数が多いのは、三浦半島から県西部の海岸沿い、いわゆる湘南地域です。横浜、鎌倉、湘南といった地域ブランド力の高さは、最初に述べたとおり。首都圏の中では温暖な気候であること、東京など各地へのアクセスも良好なことから、人気が高くなっています。
快適な老後を過ごすため、ある程度お金をかけるのは当然である。そういった考えを持つ富裕層にも、神奈川県は人気のあるエリアです。横浜・川崎といった大都市部から、小田原あたりまでの海岸部を中心に、サービスレベルの高い施設が多くなっています。
もちろん、入居時の費用や月額の利用料が、リーズナブルな施設も多数あります。また、2人で入居できる施設や、イベントの種類が多い施設、透析や気管切開などの医療ケアに対応している施設も多くあるので、希望の施設を探してみましょう。
神奈川県の特別養護老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅
施設入居を考える際に、有料老人ホームと並ぶ有力な選択肢である特別養護老人ホーム(特養) についても見てみます。政令市は、横浜市に148施設、川崎市には54施設、相模原市には38施設あります。
その他の地域では、横須賀・三浦地域に39、県央地域に41、湘南東地域に31、湘南西地域に28、県西地域に19施設があります。
神奈川県内の特養の合計は397と有料老人ホームの半数程度で、定員は35,856人です。
なお、特別養護老人ホームのうち、ユニット型の定員はどの程度なのでしょうか。数だけを見ると、横浜市が8,027人分で、最多となります。逆に川崎市は564人分にすぎず、神奈川県下では一番少なくなっています。
目立つのは相模原市で、特養全体の定員3,156人のうち、ユニット型の定員が1,966人を占めます。実に62%となり、新しく開設された特養が多いことがうかがえます。この傾向が見られるのは横浜市、県央地域、湘南西地域で、いずれもユニット型が半数より多くなっています。
特別養護老人ホームの場合、東京に近いエリアよりは、やや離れたエリアのほうが見つけやすい傾向を読み取ることができます。入居を希望される場合は、希望する地域を少し広げてみるとよいでしょう。
なお、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も、整備が進んでいます。建設中のものも含まれますが、県内全体で297のサ高住があります。うち半数弱は横浜市・川崎市エリアにあり、ある程度都市化が進んだエリアが中心にはなりますが、県全体をくまなくカバーしているといえるでしょう。
サ高住は、全国的にも施設の新設が急ピッチで行われており、神奈川県内も例外ではありません。気軽に入居することができる賃貸なので、状況によっては入居を積極的に検討する価値は大きいといえます。
神奈川県の高齢化率・高齢者政策
神奈川県における高齢化率はどうでしょうか。2020年1月1日時点での、神奈川県の年齢別人口統計調査結果によると、神奈川県の高齢化率は25.4%です。同じ時点での全国平均は28.6%ですから、それよりは3ポイントほど低いことがわかります。団塊の世代は既に高齢者になり、さらにこれからは出生数の多い世代がどんどん高齢者の仲間入りを果たしていきます。特に、2025年には県民のおよそ4人に1人が、75歳以上の後期高齢者になると推計されています。
高齢者たちが、住み慣れた地域で、できるだけ健康で自立した生活を送れることを目標とした「かながわ高齢者保健福祉計画」が実施されています。
この計画は3年ごとに見直され、2023年8月現在では、第8期の期間に入っています。計画の柱は、「安心して元気に暮らせる社会づくり」、「いきいきと暮らすしくみづくり」、「介護保険サービス等の適切な提供とその基盤づくり」からなり、数値目標も定められています。
神奈川県では、高齢者の尊厳を守る取り組みも
これまでの取り組みも、おおむね順調であったといえます。地域包括ケアシステムの構築という非常に大きな課題も、地域包括支援センターの設置だけにとどまらず、生活支援コーディネイターの養成や広域的なボランティア活動の支援といった取り組みも行われています。
高齢化が進むと同時に要介護認定者も増加しています。介護を必要とする度合いが高くなるほど高齢者が住みなれた自宅や地域で暮らすことが難しくなってきます。
実際、神奈川県の要介護認定者数は2021年現在でおよそ43.4万人です。2003年では16.9万人だったことから、18年で2.5倍以上になったことがわかります。
高齢者や要介護者が増えていることもあり、地域包括支援センターは、特に都市部ではきめ細やかな配置が行われています。住み慣れた自宅、地域で高齢者が安心して過ごすことができるための骨格づくりは、順調に進んでいるといえるでしょう。もちろん、その中には介護予防の取り組みもあります。健康づくりを推進することで、希望すれば何歳になっても社会活動への参加が可能となるような社会の実現を目指しているといえます。
また、高齢者の尊厳を守る取り組みについても、神奈川県では積極的に行われています。高齢者への虐待の予防や権利の擁護という、難しい課題についても、各種の研修や関係者への支援に取り組むことで、実現していこうという試みです。
神奈川県の中心都市は、開かれた港町である横浜です。それゆえ、県民性も進取の気性に富んでいるといえるでしょう。難しい課題に果敢にチャレンジする積極性が、神奈川県の高齢者福祉政策には息づいているのかもしれません。
都会、海、山のバランスが良い神奈川県
神奈川県は、良くも悪くも東京大都市圏の一角に位置します。雇用都市圏という考え方では、県土のほとんどが東京都市圏となっているのが神奈川県です。
巨大都市東京の延長で交通インフラの整備は進んでおり、利便性はきわめて高いといっていいでしょう。
それでも、県西部には農地なども目立ち、豊かな自然を持つ山もあります。箱根という歴史あるリゾート地や丹沢山系などに限らず、里山の恵みを、比較的身近に感じることができるのも神奈川県の魅力です。
老人ホームを探すときにも、自然を感じられる海の近くや山沿い、買い物や交通が便利な都会などさまざまな選択肢があり、希望のロケーションに近い施設を見つけやすいといえます。
温暖な気候も魅力
気候について全県的に共通する特徴は、山間部を除けば温暖で、雨が多いということです。気をつけたいのは、横浜の気象観測点が海沿いにあるため、人口が多い内陸部より気温が高めに表示されることです。「横浜はイメージより寒かった」という感想を持ったことがあるとしたら、このことが原因かもしれません。
夏場は、やはり山間部を除けば高温になり、湿度も高くなります。都市部はヒートアイランド現象もあって、暑さはかなり厳しいといえるでしょう。とはいえ、首都圏の中では千葉県南部などと並んで温暖ですから、過ごしやすい環境といえそうです。