記事公開日 2022/05/28
記事公開日 2022/05/28
有料老人ホームと特別養護老人ホーム。高齢者やその家族が施設入居を検討するときにまず浮かぶのが、このふたつの施設種類という方も多いのではないでしょうか。
ですが、このふたつの詳しい中身まで理解している方はあまり多くないかもしれません。
有料老人ホームには3つの施設種類があり、それぞれサービス内容や入居条件などが異なることを知らなかったり、特別養護老人ホームに関しても「費用が安い」「申し込みから入居までに時間がかかる」といった、ざっくりとした情報しか持ち合わせていないことも多いでしょう。
有料老人ホームと特別養護老人ホームには、どんな違いがあるのでしょうか。詳しく比較していきます。
有料老人ホームは主に民間企業によって運営されています。
施設の特徴によって、「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「健康型有料老人ホーム」の3種類に分けられ、施設によっては、食事介助や入浴介助といった介護サービス、洗濯・掃除などの日常生活上におけるサービス、入居者へ食事提供などが行なわれています。
一方、特別養護老人ホームを運営するのは、社会福祉法人や地方公共団体です。介護保険上では介護老人福祉施設と呼ばれ、特別養護老人ホームは特養と略されることもあります。
公的な施設であることから、生活困窮者であっても入居しやすい仕組みがありますが、そのぶん人気もあり、申し込みから入居までに時間がかかる場合もあります。主には重度の要介護者を入居の対象としているため、24時間の介護サービス提供があり安心です。
有料老人ホームと特別養護老人ホームの各項目を比較していく前に、まずは3種類ある有料老人ホームの違いを見ておきましょう。この3種類の大きな違いは介護サービスの提供形態でしょう。
介護付き有料老人ホームでは、施設スタッフ(または外部の契約事業者)による24時間の介護サービスを受けることができます。食事や入浴、排せつといった介助のほか、必要なときにすぐに介助を受けることができ、困ったときの対応が早いといえます。
住宅型有料老人ホームには、介護サービスがついていません。介護を受けるためには、外部の介護事業者に申し込みをして、ケアプランにそった介護を受けます。
訪問介護事業所などが施設に併設されていることもありますが、在宅介護と同じように本人が事業所を選ぶことが可能です。
24時間介護スタッフが常駐しているわけではないので、基本的には軽度の要介護者向け施設となり、介護サービスに関係すること以外では、介護付き有料老人ホームと大きな違いはありません。
介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホームは、介護を必要としている高齢者(自立や要支援も対象にしている場合もある)を入居対象者としている一方、健康型有料老人ホームに入居できるのは、自立して生活することができる高齢者です。
身体機能の維持ができるように、トレーニングジムや卓球、水泳といった運動ができるスペースなども備えていますが、要介護状態になれば退去する必要があります。
有料老人ホームの多くは、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホームで、健康型有料老人ホームはあまり普及していません。
全国的にわずかな施設数しかないため、特別養護老人ホームとの比較では健康型有料老人ホームは除いて進めますので、ご了承ください。
有料老人ホームは、65歳以上の高齢者が入居できます。ただし、住宅型有料老人ホームは施設によって60歳以上としている施設もあります。
要介護度の入居条件はさまざまです。自立や要支援の高齢者から、もっとも重い要介護5まで幅広く受け入れている施設もあれば、要介護1~5のみとしている施設などもあります。
また、40歳から64歳未満であっても、末期がんやパーキンソン病といった16ある特定疾病が認められた場合は、介護保険サービスを受けることができるため、入居することが可能です。これは特別養護老人ホームでも同様です。
入居希望者が医療ケアを必要としている場合には、施設ごとに対応できる処置に差があるため、確認が必要となります。
そもそも医療ケア全般に対応できない施設もありますし、持病や常に医療ケアが必要な身体状態であれば、事前に確認しておきましょう。
特別養護老人ホームの入居条件としては、65歳以上であり、なおかつ要介護3以上の高齢者とされています。
ただし、要介護3というのは原則です。例えば、重度の認知症であるために在宅介護が困難な場合、家族などからの虐待が疑われる場合、一人暮らしで家族や地域からの支援が十分でない場合などは、要介護1・2であっても、特例入所が認められることがあります。
要介護3に満たないから、と入居をあきらめてしまう方も少なくありません。困っている場合には、まずは相談してみるとよいでしょう。
医療ケアに関しては、施設により対応できる内容が異なります。2015年の調査になりますが、日本看護協会 医療政策部「特別養護老人ホーム・介護老人保健施設における看護職員実態調査報告書」によると、特に中心静脈栄養法(IVH)や気管カニューレ、人口呼吸療法(人口呼吸器使用)などは「受け入れ困難」と回答している施設がほとんどです。
特別な医療処置が必要な場合には入居人数制限を設けていることもあるため、必ず確認しましょう。
介護施設への入居を考える際に、もっとも重要な項目のひとつが介護サービスでしょう。
簡単に比較をすると、介護付き有料老人ホームと特別養護老人ホームでは24時間365日の介護を受けることができ、住宅型有料老人ホームでは施設による介護サービスはありません。住宅型有料老人ホームで介護サービスを受けるためには、別途訪問介護事業所などと契約をします。
つまり、介護付き有料老人ホームと特別養護老人ホームでは要介護度が重くなっても介護サービスの面で安心です。住宅型有料老人ホームで手厚い介護を謳う施設もありますが、介護サービスを受けるためには上記の通りとなりますので、併設の介護事業所などのスタッフが介護にあたることになります。
ただし、介護付き有料老人ホームと特別養護老人ホームの介護サービス費は一定であるのに対し、住宅型有料老人ホームの場合は利用したぶんだけ介護費用がかかることになります。手厚い介護を受ければそれだけ費用もかさむということなので、注意が必要です。
介護施設の種類によっては、職員の職種とその人数や割合が決まっており、特別養護老人ホームと有料老人ホームは人員配置基準に決まりがあります。
●介護付き有料老人ホームの人員配置基準
・管理者 1人
・介護職員、看護職員(看護師・准看護師) 入居者3人に対して職員1人の割合で配置
・生活相談員 利用者100人に対して職員1人
・機能訓練指導員 1人以上
・介護支援専門員(ケアマネジャー) 1人以上
●特別養護老人ホームの人員配置基準
・施設長 1人
・医師 入居者の健康管理などを行うために必要な人数を配置
・生活相談員 利用者100人に対して職員1人以上
・介護職員、看護職員(看護師・准看護師) 入居者3人に対して職員1人の割合で配置
・栄養士 1人以上
・機能訓練指導員 1人以上
・介護支援専門員(ケアマネジャー) 利用者100人に対して職員1人以上
・調理員、事務員その他の職員 当該特別養護老人ホームの実情に応じた適当数
施設長(管理者)、介護職員、看護職員、医師に関しては役割を想像しやすいかもしれません。
その他の職種に関して簡単に説明すると、生活相談員は、入居を希望している方に対する施設の説明や相談支援、入居者が生活で困っていることなどに対する相談支援を行います。
機能訓練指導員は理学療法士や作業療法士などを指し、入居者の身体機能維持を目的としています。介護支援専門員はケアマネジャーとも呼ばれ、入居者の介護計画を作成。栄養士は栄養バランスのとれた食事を提案したりアドバイスをします。
特別養護老人ホームと介護付き有料老人ホームの大きな違いは、特別養護老人ホームでは医師と栄養士の配置を義務付けていることです。
この人員配置の基準だけ見る限りでは、特別養護老人ホームのほうが医療ケアや栄養管理の面で長けているようにみえます。
ただし、これは最低ラインの基準であるため、介護付き有料老人ホームでもプラスアルファの人員配置をしている施設があります。
実際の人員配置は施設によって大きな違いがあるので、気になる施設はひとつひとつ確認することも大切です。
一方、住宅型有料老人ホームでは、介護士、看護師、機能訓練士などを配置する必要はありません。住宅型有料老人ホームでは、外部の事業所による介護サービスを受けることを前提としているためです。
外部の事業所からは、在宅介護と同じように、訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、デイサービス、通所リハビリテーション(デイケア)などの介護サービスを必要に応じて受けることができます。
認知症に関しては、特別養護老人ホームでは入居が可能です。有料老人ホームの場合は施設の受け入れ態勢によって異なり、重度者でも受け入れ可能なほど認知症ケアに力を入れている施設もあれば、軽度者なら可能という施設や、入居ができない施設もあります。
認知症ケアの体制があまり整っていない施設の場合、入居中に重度の認知症になったときには退去しなければならない可能性もあります。
入居時に認知症を発症していない場合であっても、どの程度まで受け入れ可能なのかは確認しておいたほうがよいでしょう。
特別養護老人ホームの状況を見ると、特養に入居している認知症高齢者の状態として、「認知症高齢者の日常生活自立度」ランクⅡ以上の入所者が9割以上を占めていることが、厚生労働省の資料からわかります。
このランクⅡの状態では、日常生活に支障がでるような症状・行動や意志疎通の困難さが多少見られますが、誰かが注意すれば自立して行動できる状態です。具体的には、金銭管理が困難、服薬管理ができない、火の元や戸締りの管理ができない、道に迷うなどが挙げられます。
「認知症高齢者の日常生活自立度」について簡単に補足すると、これは、認知症を持つ人が日常生活をどの程度自身で自立して行えているかという判定指標のひとつです。
日常生活自立度は、自立・Ⅰ・Ⅱa・Ⅱb・Ⅲa・Ⅲb・Ⅳ・Mの8段階があり、「自立」がもっとも軽く、「Ⅳ」がもっとも重い状態を示します。
上記の「人員配置による違い」から、特別養護老人ホームと介護付き有料老人ホームの大きな違いは、医師に関してです。特別養護老人ホームでは医師の配置を義務付けています。このことからも、医療ケアは特養のほうが手厚いといえます。
しかし、内科や精神科など医師の専門分野はさまざまですし、定期診療の回数、緊急時の対応などは施設によってさまざまです。
一方、医師の配置が義務付けられていない介護付き有料老人ホームでも、医療法人が運営するなど医療ケアに力を入れている施設が増えています。なかにはクリニックを併設している有料老人ホームもあります。
特別養護老人ホームも介護付き有料老人ホームも、医療ケアの充実度は施設によって異なるため、それぞれの施設に詳しく確認することが必要になります。
特別な医療処置が必要な場合はなおさらです。実際に、エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社の報告書によると、特別な医療処置が必要等の入所者受け入れを断っているか、という質問に対して、93.2%の特別養護老人ホームが「断ったことがある」と回答しています。
また、リハビリテーションに関しても医療と捉えることができますが、特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム共に、機能訓練指導員の配置を義務付けているとはいえ、集団でリハビリテーションを実施しているのか、個別で行なっているのか、訓練の内容なども含めて、どの程度力を入れているかはさまざまです。
看護師の配置状況なども含めて十分な確認が必要といえるでしょう。
加えて、どちらの施設種類も、精密検査や手術などは受けることはできません。手術が必要になれば、必要な期間入院します。
特別養護老人ホームの場合、3カ月以上の長期間入院した場合には退去を求められることもあるので、注意が必要です。
施設での生活は、一人で暮らしていたとき、または家族と一緒に自宅で生活をしていたときと、当然ですが異なります。
施設では他にもたくさんの入居者がいますし、それを支える職員も大勢います。プライベートを確保できる居室があったとしても、やはりある程度は集団生活の中に身をおかなければなりません。
食事は基本的に食堂で食べることになりますし、レクリエーションでは他の入居者と一緒に楽しむことになります。
良くいえば、世代が近いたくさんの友人ができて、身の回りの世話をしてくれるスタッフがいるので快適に過ごせるということができます。
悪くいえば、プライベートが少なく、他人と交わりたくない人であっても、必ず誰かと接しなければならない時間があります。
特別養護老人ホームも有料老人ホームも、起床時間や食事の時間、入浴の時間、レクリエーションの時間などがある程度1日のスケジュールとして決まっていることがほとんどです。
特に特別養護老人ホームは入居できるのが原則要介護3以上となるため、介護の必要性が高い高齢者が多い施設です。寝たきりや車椅子で生活する高齢者も多いため、自発的な外出などは難しくなります。
一方、有料老人ホームでは、要介護度の高い入居者もいるものの、自立していたり、自発的に外出可能な要介護者もいます。家族が面会に来た際に一緒に外出したり、外泊をすることも可能です。
ただし、外出可能な時間が決まっていることが多いので、確認しておきましょう。外泊の場合は届け出が必要になりますので、こちらも忘れないようにしてください。
有料老人ホームも特別養護老人ホームも、どちらも多くの施設で、季節ごとのイベントを行なっています。春であればお花見、冬であればクリスマス会などです。外出が難しい入居者であっても、施設内にいながら季節を感じやすいといえるでしょう。
有料老人ホームは一人用の個室が一般的で、なかには夫婦で入居できるように広めの居室を用意している施設もあります。
トイレや浴室は居室内に設置されていることもあれば共同で利用する場合もあり、なかにはキッチンを兼ね備えている居室もあります。トイレや洗面、収納などが居室についた有料老人ホームは多いですが、浴室やキッチンが備わっている居室は少ない傾向です。
特別養護老人ホームでは、入居者の要介護度が高いことからキッチンや浴室はついていません。細かい条件はあるものの、身の回りのものを収納できる設備やベッドなどがあればよいとされています。
また、有料老人ホームとの大きな違いは、従来型個室・多床室・ユニット型個室・ユニット型個室的多床室といった4つの居室タイプに分かれていることです。
従来型個室は、1つの部屋を1人で利用する完全な個室です。多床室は、1つの部屋を複数人で利用する大部屋を指します。
ユニット型個室は、居室の使い方は従来型個室と同様で、プライベートに配慮した個室です。違いは10人以下を1つのユニットとして、そこに担当の職員が付くため、より細やかなケアを受けることができます。このケア対応のことをユニットケアといいます。
ユニット型個室的多床室は、ユニット型であることは同じですが、居室のタイプが異なります。居室は大部屋を固定壁で仕切ってあるため天井や壁の間に隙間があるなど、完全な個室ではありません。
プライベートを大事にしたいのであれば、有料老人ホーム、または特別養護老人ホームの従来型個室やユニット型個室を選択するとよいでしょう。
しかし、特養は居室タイプによって費用が異なり、ユニット型個室がもっとも高く設定されているので、費用面と相談しながら決める必要があります。
有料老人ホームと特別養護老人ホームの費用に関する大きな違いは、入居一時金の有無です。特養では入居一時金を支払う必要がないため、初期費用をおさえることが可能です。
有料老人ホームの場合、ときには1千万円を大きく超える入居一時金が必要な場合もあり、ある程度まとまったお金が必要になります。
この入居一時金とは、厚生労働省によると「終身にわたって受領する家賃又はサービス費用の全部を前払金として一括して受領する方式」とされています。前払金は、入居前にホームへ支払う月額利用料や敷金を除いた費用を指します。
入居一時金はまとまったお金を捻出することが難しい場合もありますが、入居一時金0円の有料老人ホームも増えています。
その場合、入居へのハードルは低くなるものの、そのぶん月々の費用が高めになりますので、長い間その施設で生活を送ると、トータルの金額では高めになってしまう可能性もあります。そのあたりは注意が必要でしょう。
入居一時金に関しては、退去の際にトラブルが多く見られます。事前の契約内容よく理解し、納得したうえで入居を決断しましょう。
介護サービス費に関しては、介護付き有料老人ホーム、特別養護老人ホーム共に、要介護度によって一定で、要介護度が高くなるほど料金も高くなります。
介護サービス費には介護保険が適用されるので、実際に支払うのは所得に応じた自己負担額のみとなります。仮に、介護サービス費が実際20万円かかったとしても、1割負担であれば支払額は2万円です。
介護付き有料老人ホーム、特別養護老人ホームの要介護度による自己負担の目安は以下になります。特養は従来型とユニット型で料金が変わります。
●介護付き有料老人ホーム(月当たり、1割負担の場合)
要支援1 5,460円
要支援2 9,330円
要介護1 16,140円
要介護2 18,120円
要介護3 20,220円
要介護4 22,140円
要介護5 24,210円
●特別養護老人ホーム(月当たり、1割負担の場合)
従来型個室・多床室
要介護1 17,190円
要介護2 19,230円
要介護3 21,360円
要介護4 23,400円
要介護5 25,410円
ユニット型個室・ユニット型個室的多床室
要介護1 19,560円
要介護2 21,600円
要介護3 23,790円
要介護4 25,860円
要介護5 27,870円
*1単位10円、1カ月30日で計算(1単位の金額は地域により異なる)
この介護サービス費を多い順に並べると、要介護5の場合、特養のユニット型個室・ユニット型個室的多床室(27,870円)>特養の従来型個室・多床室(25,410円)>介護付き有料老人ホーム(24,210円)となります。
同じ要介護度でも施設種類や居室タイプによって、費用に差が生じることがわかります。
また、どちらの施設も基準以上のサービスを提供している場合には、サービス加算が発生します。介護職員や看護職員の配置割合、その他スタッフの配置数などは最低基準が決まっています。
それ以上の人員を配置する場合や、栄養面、口腔ケアに関する手厚さ、認知症ケアの力の入れ方、看取りの有無などによって、プラスアルファで費用が発生するのです。
そのため、どの程度のサービス加算がかかるのかは施設によって異なります。手厚いサービスを提供してくれる施設は魅力的ですが、やはりそのぶんの費用はかかりますので、費用とサービスを上手に天秤にかけて考えることも必要です。
住宅型有料老人ホームの場合は介護サービスがついていないため、施設に支払う料金は安めになる傾向です。介護の必要がない元気なうちは費用面でのメリットがありますが、介護サービスを利用する必要が出た場合はそのぶんの料金が別途かかります。
特に要介護度が重くなると介護サービスにかかる費用もかさみ、結果的に介護付き有料老人ホームよりも高くなる可能性があります。
高齢になると何かしらの支援が必要になることが多いため、そのことも考慮したプランを立てておいたほうがよいでしょう。
有料老人ホームは民間企業などが運営する施設のため、安定した経営を続けていくためにもある程度の利益を出すことが必要です。特別養護老人ホームは公的な介護保険施設のため、要介護度などの条件さえ合致すれば、誰でも入居できるくらいにハードルが下げられています。
家賃や食費、介護に関する費用など、当然どちらの施設であっても最低限の費用は必要ですが、特別養護老人ホームでは所得に応じて費用負担を軽くできる仕組みがあります。
生活保護受給者などから一般的な収入がある人まで4段階にわけ、所得によって食費と居住費の利用者負担限度額が設けられます。
特養での1日あたりの食費の水準は1,380円ですが、生活保護受給者などの第1段階と認定されれば300円です。また、居住費に関しては通常の多床室の料金840円に対し、第1段階では0円となります。
また、特養では一部の利用料が医療費控除の対象にもなります。
生活保護受給者などを受け入れている有料老人ホームもありますが、それほど一般的ではありません。これらのことから、特別養護老人ホームは、生活困窮者にもやさしい施設であることがわかるでしょう。
生活にかかるものに関しては、どちらの施設でも各自が必要に応じて購入する必要があり、これに対しての軽減制度などはありません。
ただし、ひとつ特徴的なのが「おむつ代」です。排せつ障がいなどの場合はおむつをする必要が出てきますが、1日に何度も取り替えなくてはならないので意外にトータルの費用が膨らみます。このおむつ代が特別養護老人ホームではサービス費のなかに含まれており、発生しません。
有料老人ホームではおむつ代が別途必要になりますが、医療費控除の対象となる場合もありますので、詳しくは税務署などに問い合わせてみてください。
厚生労働省によると、2016年時点での施設数は、有料老人ホームが11,739施設、特別養護老人ホームが9,645施設です。
特別養護老人ホームは待機者が出るほど入居希望者が多いことから、全国的に増やす方向となっています。また、2015年度の介護保険制度改正で、入居条件を原則要介護3以上としました。施設数は増加していきますが、入居できる人はより限定されたことになります。
これらのことから、より介護を必要としている人が入居しやすくなった反面、要介護1・2の人は特別な事情がない限り、入居できなくなりました。
ただし、施設数が増えても、それ以上に高齢者人口も年々増加しています。団塊の世代が全員75歳以上になる2025年に高齢化率は30.0%となり、その後もさらに上昇を続ける予想です。
2015年あたりには4人に1人程度だった高齢者の割合が、2025年には3.3人に1人になり、2050年ころには2.6人に1人になると見込まれています。
そのため、今後特別養護老人ホームの整備が進んでも、必ず待機者を解消できるかどうかは不明です。現状では、都市部で待機者が多い一方、都市部以外では空きのある特養もあります。
子どもが住む都市部では数ヶ月、数年待ちであっても、親が住む地元では空きがある可能性があるので、選択肢を広くしてみるのもよいかもしれません。
有料老人ホームでは、施設に空きがあればすぐに入居することができます。もちろん人気のある施設は入居が難しいこともありますが、特別養護老人ホームに比べれば全体的に入居希望者は少ないため、すぐに入居先を決めることが可能です。
特別養護老人ホームと同様に有料老人ホームの増設も進んでおり、それぞれの運営者がそれぞれの理念に従って運営しています。
特養に比べるとサービスの内容に幅があり、入居する本人の希望にあった施設を見つけやすいといえるでしょう。
老人ホームを退去する要因はさまざまです。入居者が自宅に戻るとき、入院して退院の見通しがたたないとき、亡くなってしまったときなどが考えられます。
入居者やその家族が選択して退去となった場合や、看取りをした場合であれば、希望通りの結果であると考えられ、本人や家族にとってのデメリットは特にありません。
しかし、施設の条件によっては、望まない退去となってしまう場合があります。
特別養護老人ホームでは、基本的にむやみに退去をうながすようなことはありません。しかし、そもそも特養に入居できるのは要介護の認定を受けている必要があります。
そのため、特養入居中に要介護度が改善して、要支援、または自立と認定された場合(2015年4月以降の入居者の場合は要介護1・2も含む)には退去しなければなりません。
また、施設で対応できない医療ケアが必要になった場合や、3カ月以上の長期入院の場合も退去の必要があります。やむを得ず退去を求める場合にも、施設側は本人や家族の意向を十分に確認する必要があり、状況に応じて退所後の支援も行ないます。
有料老人ホームが退去を求めるのはいくつかのケースがありますが、例えば、料金の支払いが滞った、施設で対応不可能な医療ケアが必要になった、長期間入院し退院の可能性が低い、他の入居者に対して暴力や迷惑行為を行なったなどの場合が考えられます。
有料老人ホームに入居するときには、必ず重要事項説明書という書類を交わします。そこには契約解除の条件に関しても記載があり、ほとんどの場合は契約などの前に内容の確認が可能です。
重要事項説明書には、費用や職員の配置、事業所概要、協力医療機関などの詳細が書かれていますが、退去の条件に関しても確認しておくとよいでしょう。
老人ホームへの入居を検討する場合の多くは、自宅での介護が難しくなってからかと思います。しかし、元気なうちから入居を検討できるのが「自立」を対象としている有料老人ホームです。
特別養護老人ホームは原則として比較的要介護度が重い「要介護3以上」が入居条件となります。
介護サービスの充実度は施設によって異なりますが、住宅型有料老人ホームでは施設による介護サービス提供がなく、介護付き有料老人ホームと特別養護老人ホームの介護サービスは同程度です。
費用に関しては、特別養護老人ホームのほうが生活困窮者にとっては入居しやすく、有料老人ホームはサービス内容や立地などによって、特養に近い費用で利用できる施設もあれば入居に数千万円かかってしまう施設もあります。
ただし、特別養護老人ホームは人気が高いため、すぐに入居できない施設も多数ありますが、有料老人ホームであれば特養に比べて入居しやすく、幅広い選択肢から選ぶことができます。
どちらの施設にも、それぞれのメリット・デメリットがあります。また、いまは元気であっても、数年後には医療ケアが必要になったり認知症を発症する可能性があるなど、現在と将来では心身の状態に変化が出るかもしれません。
入居する本人の希望を優先しながら、これらのことをあわせて老人ホームを選んでみてはいかがでしょうか。