記事公開日 2022/11/17
記事公開日 2022/11/17
介護老人保健施設(老健)とはどのような施設なのでしょうか。ここでは老健の役割や特徴、入居条件、気になる費用などについて詳しく紹介します。
類似する特養との違いも解説するので、ぜひご覧ください。
老健とは、介護を必要とする高齢者の自立を支援し、在宅復帰を目指すための介護保険施設です。
退院後にできるだけ無理なく自宅に戻れるような支援をするほか、自宅での日常生活が難しくなった方が一度老健に入居し、在宅復帰を目指すこともあります。
入居後は、介護職員や看護師によるケアに加え、医師による診療、理学療法士・作業療法士などによるリハビリテーションを受けます。
出典:厚生労働省『第177回社会保障審議会介護給付費分科会 資料』
2018年の介護報酬改定により、入居者を在宅復帰させる機能をもとに老健の区分は3つから5つに変更となりました。
在宅復帰率や入居・退去前後の訪問指導の割合、リハビリ専門職の充実度などにより、機能が高い順に「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」「その他型」となっています。
老健の4つの特徴についてご紹介します。
老健は高齢者の在宅復帰を目的としているため、入居期間は原則3カ月と決められています。
3カ月に1回のペースで入居継続についての判定があり、もし継続が決まればその都度延長されます。平均在所期間は約1年です。
他の施設に比べると入居者の回転が早いため、入居までの待機期間も比較的短くなります。
老健では自宅での日常生活が困難な入居者に対し、一人ひとりに合わせたリハビリを提供しています。
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの国家資格を持った専門スタッフによるリハビリを受けることができ、身体機能の回復を図るためにリハビリは最低でも週2回実施されます。
老健は公的な施設であるため、有料老人ホームなどの民間施設よりも費用が低額になる傾向です。 介護サービスなどの費用には介護保険が適用され、所得に応じて自己負担は1~3割。入居一時金もかかりません。
世帯の所得や預貯金等に応じて、居住費や食費を減免する制度もあります。
介護保険と医療保険は併用できないため、老健の中での医療行為は介護保険内で行われます。常駐の薬剤師による薬の処方も可能です。
ただし薬代は施設側の負担となるので、多量の薬が必要な方だと入居自体を断られることもあります。
また、入院による治療が必要となった場合は、一旦退去してから医療保険の適用を受けます。
老健の入居対象者は、要介護1~5で年齢が65歳以上の高齢者です。40歳以上65歳未満でも、特定疾病があり要介護1~5の認定を受けていれば入居が可能になります。
要支援の方は入居できません。
また、入院の必要がなく病状が安定している方、リハビリを必要としている方が対象となります。
■1カ月の費用目安(要介護3・基本型・多床室を利用の場合)
※1割負担の場合
老健は入居一時金などの初期費用がかかりません。
月額費用は8~15万円程度で、内訳は「施設介護サービス費」「居住費」、「食費」、「日常生活費」などで構成されます。
介護保険の適用される公的な施設なため、施設介護サービス費の自己負担分は所得に応じて1~3割です。
必要に応じて「介護サービス加算」もプラスされます。例えば、認知症の方の受け入れ態勢が整った老健には認知症ケア加算がつくなど、施設の取り組みによって入居者の自己負担分も増える仕組みです。
居住費は老健の種類や居室のタイプによって大きく変わります。多床室の費用がもっとも低く、ユニット型の費用がもっとも高く設定されています。
日常生活費はおむつ以外の生活消耗品などにかかる費用です。シャンプーや歯ブラシなどがあげられますが、家庭から現品を持ち込み可にしている施設もあります。
預貯金や収入が少なくても入居できるように、所得に応じて居住費や食費を減免する制度もあります。
入居者の在宅復帰を目指す老健には、ほかの介護施設と違った特色があります。ここでは具体的にどのようなサービスが提供されているのかを解説します。
老健では理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの国家資格をもつ専門スタッフが常駐し、入居者の心身の機能回復を図ります。リハビリ器具などの設備もあり、入居者一人ひとりにあわせたリハビリが可能です。
また、自宅のバリアフリー化など在宅復帰後の生活についてのアドバイスも行います。
退院後に入居する方が多いため、ほかの介護施設に比べ医療体制が整っています。
医師は入居者100名に対し1名以上配置されており、看護師が24時間体制で常駐する施設も少なくありません。風邪や腹痛などの対応のほか、たん吸引や経管栄養、インシュリン注射といった医療ケアに対応する施設もあります。
薬剤師の配置も定められているので、施設内で薬の処方ができます。
食事介助や入浴介助、おむつ交換などの身体介護や、掃除やシーツ交換といった住環境を整えるサービスを受けられます。
しかし、洗濯や買い物代行などの生活支援サービスは十分でない場合があり、洗濯は家族や外部業者への依頼が必要な施設も多いようです。
食事は栄養士が栄養バランスやカロリーを考慮した献立を作成し、一日3食を提供しています。一人ひとりの嚥下能力や塩分制限の有無などに合わせて、介護食などを個別対応することも可能です。
食が進まないと悩む入居者にも食べてもらえるよう、老健の栄養士は日々工夫をしています。
老健では、介護・看護、医師をはじめとする多くの専門職の配置が定められています。それぞれの職種の配置基準と、入居者とどう関わるのかを解説します。
老健は入居者3人に対して介護・看護職員1人以上の配置基準が定められています。看護職員と介護職員の総数が7人だった場合、そのうち2人を看護職員とすることが標準の基準です。
介護職員は、食事介助・入浴介助・排泄介助などの身体介助と、見守り、緊急時の対応、居室清掃などを行います。
看護職員が提供するのは、バイタルチェックなどの健康管理や服薬管理、経管栄養、たん吸引、褥瘡の処置などの医療ケアなどです。
入居者の健康管理やリハビリ職などへの適切な指示を行います。入居者100人に対して常勤の医師が1人以上必要です。
医師の配置が義務付けられていない特別養護老人ホームと比べて、入居者一人ひとりの細かい健康状態の把握、管理がしやすくなります。
薬剤師の配置基準は入居者300人に対して1人ですが、服薬が必要な入居者の人数など実情に合わせた配置が求められています。
服薬管理や服薬指導がメインとなり、入居者の健康を薬学的観点から支えます。
支援相談員は1人以上の配置が定められています。入居者の相談に対応し、施設での生活が上手くいくよう他のスタッフと情報共有します。
入居者の退去後の生活が上手くいくように支援するのも大きな役割の1つです。
入居者100人に対して1人以上が義務付けられています。 入居者の状態評価、リハビリ計画作成、リハビリの実行、生活を送る上で不可欠となる機能を向上させる指導をします。
理学療法士は、歩く、食べる、座るなどの運動機能の回復を支援し、作業療法士は日常生活に必要な動作や心のリハビリテーションなどを担当します。
言語聴覚士は、話す、聴くなどの会話に必要な機能を維持・向上させるためのサポートを行います。
入居者100人以上で1人以上の配置です。栄養バランスやカロリーを考慮した献立を作成し、入居者の食生活を支えます。
また、入居者の嚥下能力や塩分制限などに合わせた介護食を提供するといった個別対応も行っています。
1施設に1人以上の配置が定められており、入居者100人に対し1人以上が標準です。
各専門スタッフと協力しながら入居者の状態を確認し、一人ひとりのケアプランを作成します。入居者やそのご家族とも面談を行い、ケアプランに反映させます。
老健を運営するためには、定められた設備基準をクリアしている必要があります。主な基準と設備の用途について解説しましょう。
1室当たり定員4人以下、入居者1人当たり8㎡以上と定められています(ユニット型の場合は10.65㎡以上)。
療養室とは居室を指し、老健の居室は「多床室」「従来型個室」「ユニット型個室」「ユニット型個室的多床室」の4タイプです。居室にはナースコールも設置されています。
機能訓練室は、1㎡×入居定員数以上が設備基準です。
入居者がリハビリをするための部屋で、理学療法士や作業療法士などのリハビリスタッフが、器具や用具などを使って入居者の機能回復を図ります。
食堂は、2㎡×入居定員数以上が設備基準です。栄養士が作成した献立が1日3回の食事時間に提供されます。
浴室は「身体の不自由な者が入浴するのに適したもの」等が設備基準です。
介護度が高い方でも入浴しやすいように機械浴などが設置されている施設も多くあり、入居者の身体の清潔さを保つために使われます。
廊下は幅が1.8m以上(中廊下は2.7m以上)と設備基準が定められ、車椅子の利用者同士がすれ違えるよう広めの幅となっています。
手すりが設けられ、療養室から他の部屋に移動する際などに通ります。
老健の居室には「多床室」「従来型個室」「ユニット型個室」「ユニット型個室的多床室」と4つのタイプがあります。それぞれのタイプの特徴について解説します。
一人での利用が可能な部屋タイプです。人目を気にせず自分の時間を楽しめるなど、居室内のプライバシーが守られることが大きなメリットです。
部屋の中には、衣類などの生活用品を管理できるタンスなどが設置されています。
いわゆる大部屋タイプの居室です。ひとつの部屋に4台以下のベッドが設置され、ひとつの空間を複数人が利用します。
ベッド間にはカーテンなどの仕切りがあり最低限のプライベートは確保されますが、同室者の生活音が聞こえてしまう環境です。個室に比べてプライバシーの確保が難しい分、部屋の利用料金は割安です。
一人で利用できる個室があり、1ユニット10名程度の小グループで生活することが特徴です。トイレ、洗面所は個別もしくは共用で、キッチン、リビングなどは共有です。
ひとつのグループにつき1名以上の施設職員が専任で担当し、一軒家の生活に近いアットホームな雰囲気の中で過ごすことができます。
居住費は4つの居室タイプの中で一番高額です。
ユニット型個室と同じく、10名程度のグループでキッチンやリビングなどを共有して生活します。
ユニット型個室との違いは、居室が完全なる個室ではないことです。もともと大部屋タイプだった部屋を壁で仕切るなどしてプライバシーを確保しています。
以前はユニット型準個室と呼ばれていましたが、実態に沿った名称に変更となりました。
老健には入居施設としての役割がありますが、在宅で介護を受けている方を対象としたサービスも併設されています。
どちらも在宅介護を受ける方に向けたサービスで、本人やご家族の生活に合わせた利用が可能です。
医療型ショートステイ(短期入所療養介護)
対象者:要介護1~5の認定を受けている方
普段は在宅で介護を受けている方が、短い期間を老健で生活してサービスを受けます。利用可能日数は最大で連続30日間、最短で一泊二日です。
デイケア(通所リハビリテーション)
対象者:要介護1~5の認定を受けている方
日中のみ老健の施設に通所して介護やリハビリを受けます。
老健と特養はどちらも介護保険施設です。公的な施設のため、低所得者に向けた負担軽減措置があります。
しかし老健と特養はその目的が大きく異なります。
老健はリハビリにより入居者の機能を回復させて在宅復帰を目指すことを目的とする一方で、特養では長期的に介護サービスを提供し、終身利用も視野に入れています。
それぞれの目的を理解し、本人に合った目的で選ぶことが大切です。ケアマネジャーへ相談してみるのもよいでしょう。
老健では多くの専門スタッフが入居者のために医療・介護・リハビリなどのサービスを提供し、在宅復帰を支援します。公的な施設で介護保険も適用されるため比較的安く利用できるのも魅力でしょう。
老健は施設ごとに在宅復帰等の評価が異なり、さらに居室のタイプも複数あります。それぞれの特徴を理解し、目的にあった施設を見つけましょう。
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