記事公開日 2022/05/28
記事公開日 2022/05/28
2017年に介護保険法第8条が改正され、それまで介護老人保健施設の定義として「要介護者に対し」と記述されていた箇所が、「居宅における生活を営むための支援を必要とするものに対し」と変更されました。
老健入所者の対象がより明確になった内容です。
それまでも老健は「中間施設」と呼ばれ、在宅復帰を支援する施設と位置づけられていましたが、この法改正によってより明確になったといえます。
またこの改正の中で、実は一般の方にはあまり広まってはいない内容が存在しています。
それは、介護老人保健施設の基本介護報酬、いわゆる利用者が支払う1~3割負担の基本部分は施設によって異なるという点です。これは「スコア」と呼ばれる10項目により点数化されます。
10項目には、「ベッド回転率」や「リハビリ専門職の配置割合」といった在宅復帰をより強化するような内容が含まれており、このスコアが高くなると介護報酬も比例して高くなる仕組みです。
そのため、老健としてはそれまで以上に在宅復帰・在宅支援を促進していこうという流れになりやすいことが分かります。
だからといって必ずしも、介護老人保健施設に入所された方が在宅復帰をしなくてはならないというわけではありません。
先程のスコアでは在宅復帰に向けた項目だけでなく、「要介護4~5の入居者割合」といった重度者の入居率や「経管栄養の実施割合」などの医療を必要とする方が入居する老健を評価するような項目もあります。
またこの10項目のスコアとは別ですが、老健で最期を看取ることへの評価(看取り介護)がされている事実もあります。
ですので、一概に「老健=在宅復帰」という考えではありません。利用者の状態やご家族の受け入れ体制に応じて柔軟な対応をしてくれるのが介護老人保健施設です。
介護老人保健施設では、支援相談員という専門職の配置が義務付けられていますので、不安があればまずは相談してみましょう。
老健を利用する高齢者は、加齢に伴い身体状況が低下したり何かしらの疾患が発症してしまうことが往々にしてあります。
また、ご本人としてはまだ改善していないと思われる状態でも退所を促されてしまうことがあります。
支援相談員はそのような相談をたくさん受けています。ご家族が施設を退所することに何らかの不安があるときには、事情に応じた相談にのってくれることでしょう。
冒頭で述べた通り、介護老人保健施設は「在宅支援」が目的のひとつとなっていることから、自宅と老健の往復を定期的に繰り返し利用することが理想的とされています。
この理想のように自宅に戻れればよいのですが、実際にはさまざまな理由で自宅に帰れない方も多くいます。
しかし、自宅での介護が難しいという家族の状況がわかっていたとしても、老健側は運営上しかたなく退所を求めることもあるのです。
そのような状態になったら、退去先の選択肢のひとつとして挙げられるのが有料老人ホームでしょう。
「自宅と老健の往復が理想」なのになぜ有料老人ホームなのかというと、少し専門的な話になりますが介護保険法上、有料老人ホームは施設ではなく在宅扱いとする仕組みになっているからです。
そのため、老健が在宅復帰を促してきたときに備えて早めに有料老人ホームを検討しておくと、いざというときに焦ることなくスムーズな対応が可能です。
また、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は賃貸で入居できるので、身体状態によってはこちらも候補に入るかもしれません。
有料老人ホームなどを探すときのポイントとして、短期間(3~6カ月)のみ利用できる施設かを確認しておきましょう。
老健をこのように利用するときのスパンは施設によって若干異なりますが、3カ月程度に設定している施設が多い印象です。
自宅に帰ることができず、介護老人保健施設への再入居が希望であれば、このように利用することでご本人もご家族も負担が少なく継続的に施設サービスを利用できます。
長期的な老人ホームの利用を希望しているのであれば、長期の目で選んだ有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)を検討するとよいでしょう。
今回の例は、あくまで介護老人保健施設を上手く活用する一例です。ご家族の状況や資金面で難しいこともあるかもしれませんが、その場合も含めてまずは施設にいる支援相談員に相談してみてください。
介護保険施設である老健は、低所得高齢者への給付措置があり安価に利用できる反面、利用への制約が課されています。
そういった介護保険の特性も理解した上で、上手にサービスを活用していきましょう。